6 再開発計画における立場別・問題別・時期別整理法――まちづくり計画とコーディネイトの原点――

[解題]初めて再開発事業を担当することになった時の文章である。密集賃貸住宅が大半で、それにアパート、パチンコ、少数の小売店など約300戸(土地・建物・居住者が重なるので権利件数にすれば約900件)の権利調整の原案を考えねばならなくなって、悩みながらまとめた文章である。権利調整は役所の下請けとしてやったのだが、これは調整案のベースになった考えをまとめてものである。再開発の担当になったのが昭和45年(1970)の暮れ頃からである。権利調整の案がまとまったのは48年暮れ頃で、ついで実施設計にかかった。
49年中頃だったと思うが、再開発の資料雑誌のようなところから依頼されて書いた。この考え方は、その後のあらゆる私の仕事に対するスタンスの原点になった。一口に言うと、「住民本位の計画」とは、単に、住民の声を聞いたらいいというものではない。住民の気持ちは大切にしなければならないが、聞いてばかりいても公平な計画はできない。結果的に誰かが100点で満足するということは、その対極に不満を貯めることになるので、望ましい方法ではないということである。その後一部には手を入れているが、ほとんど変わってはいない。また、この論旨で技術士の試験にも通ったということも、思い出になっている。(2009.09)
1.コーディネーターは何を求められているか
2.再開発事業成立のための三条件
3.コンセンサスづくりの自己診断法
4.総論賛成・各論反対‥‥‥
5.住民の立場による意見の相違
6.コンセンサスの時期をいつにおくか
7.現在と計画時点とのズレ
8.過去のあと取りと将来の先取り
9.大きい声と小さい声
10.目標は「総論賛成・各論やむをえない」

前文
 住民本位の地域づくり・街づくりが叫ばれているが、住民の意見には常に相反する態度が現われる。地域や街を形づくっている人たちは立場も違えば階層もちがう(多元多層集団である)からである。例えば商店街で自動車の通行規制をやろうとした場合、同じ商売人同士であっても、八百屋さんと時計屋さんでは全く反する態度になりやすい。八百屋さんは車での商品の補給が必要だが時計屋さんにはそれがない。
 これらの意見の相違を一挙に頭に入れて、それを前提条件に組み込んで計画に反映していくことはむずかしいから、何らかの整理方法がいる。できるだけ多くの人たちの合意を得ようと思ったら、できるだけ多くの人たちの意見を計画に反映しなければならない。それにはまず、多くの人たちの意見や立場のちがいを明確にすることから始まる。
 この方法として、私どもが「立場別・時期別問題整理法」とか「多元多層集団における合意形成のための問題整理法」と名づけて、地域計画や市街地再開発計画で用いている方法を紹介してみたい。もちろんこれは事業手法ではないから問題を解決するためには役立たないが、そのための問題を鮮明にすることにはなると思う。問題の発生から整理法の活用までを一応書いてみる、気がむいたらやってみていただきたい。権利者間の調整・説得のための材料にも使えると思う。

1.コーディネーターは何を求められているか
 再開発事業の発端は大体次のような話で始まる。「われわれに何の相談もなしに、街ごと変ってしまうような再開発事業を計画することはゆるされない。まず、計画づくりは“住民本位”で行うという約束をせよ。また、今まで行った調査や計画などは、ただちに全てを公表せよ。」
 「まだ計画図までかける段階ではなく、実態調査だけでもやってみたいと考え、とりかかったところである。再開発事業をやるかどうか以前に“街づくり”についての皆さんの意向を知りたいのでアンケート調査に協力してほしい。その上で皆さん方の意向と実態にもとづいて、プランづくりをはじめたいと思う。」
 「一旦アンケート調査をすると,それで手続きが終ったといって事業を強行するのが市役所の常套手段だと聞いている。まず今後一切強行をせず“住民本位”でいくという約束をせよ。そして今までの資料、とくに地価評価を公表せよ。」
 はじめての再開発事業説明会から、すでにこのようなはげしいやりとりが、地元と市やコーディネーターとの間にはじまる。組合施行の場合でも幾分トーンがちがうだけで、真剣なやりとりが続く。
 「いろいろ聞かせていただきましたが、少しはわかりかけた気もしますが、再開発事業の仕組はどうもわかりません。私は帰って主人に報告、説明しなきゃならんのですが、結局ここは再開発した方がいい所なんでしょうか。私たちはそれに加わった方がいいのでしょうか。あちこちの例を知っておられる目からみて、本当はどう思っておられるのですか……」
 最初の説明会で、「第一回目だし……まあこれぐらいかな……」と思い、一応終りにしかけた途端に、若い奥様方から真剣な眼差しでにらまれながら問いかけられるとカタッとくる。これらの話は再開発事業が始まって以来今日まで、いつもどこかで繰り返されてきている。
 この話の中に二つの重要な内容が含まれている。その一つは“住民本位”という理念(たてまえ)をはっきりしておいてほしいということであり、もう一つは自分個人の立場(本音の立場)からみてどう考えたらいいのか(例えば地価がいくらかなど)の“判断の手助け”がほしいという願いである。再開発事業のコーディネーターの役割をはたす人たちは、重要で過酷な立場に立たされている。

2. 再開発事業成立のための三条件
 住民本位という立場に立って、なおかつ現実的判断力をもってくれということが、地元の人たちのコーディネーターに対する期待である。それに応えるためには、現実的な判断基準をもっていなければならない。その条件は次の三つと考えてよい。
1. “さま”になるまちづくりであること。
2. 合意形成(コンセンサス)できるプランであること。
3. 採算が合うこと。
 最初の“さま”になるプランかどうかを最もうるさくいう人は、補助金をくれる役所の人たちである。補助金やその他の助成は一般の国民や市民の負担になるわけであるから、当然きびしくチェックされる。しかし、よい街をつくることは何も役所のためではなく、街の人たち全部の願いである、近隣の人たちの合意をはかるためにも“さま”になるプランが大切である。
 二番目の関係者の合意がとれるかどうかは、まさに合意形成そのものである。
 三番目の“採算”については、バランスシートの左右が釣合うということであり、そのコンセンサスをえるには、区域内の関係者だけでなく、事業に参加してくれるディベロッパーも加えなければならない。公共団体施行の場合だと、市の財政の人(つまり一般市民・納税者)もコンセンサスに加わってもらわねばならない。一般市民の納得がえられないような財政援助はゆるされない。
 こうしてみてくると、“さま”になるまちづくり=よい街・安全な街、をつくっていくことも、バランスシートを考えることも、いずれもコンセンサスづくりに帰結する。つまり、住民本位という全体のたてまえと、個人の利害という本音をないまぜたコンセンサスが不可欠となる。

3.コンセンサスづくりの自己診断法
 再開発事業の成否は、つまるところ再開発をすることについてのコンセンサスを得ることにつきる。これは言うまでもないわかりきったことであるが、問題はコンセンサスが得られるかどうかを、計画の準備段階でわかるかどうかである。つまり、コンセンサスを得られるプランであるかどうかの自己診断ができねばならない。
「多元多層集団における合意形成のための計画手法」などと大迎な文句を連ねたが、簡単にいえば「立場別・問題別対応予想表(別表参照)」とでもいうような表を、再開発関係者の身になって作ってみることである。
6-1立場別表
 再開発事業の場合は、多様な関係者の立場の調整、再開発地区の状況、近隣の状況、採算の大枠がきまったら、基本的にはそれほどたくさんの計画パターンが出てくることはない。だからそれぞれの計画について上記の立場別・問題別対応予想表をうめていけばよい。それによってどのプランがよいか、コンセンサスを得るカギはどのあたりにあるのかなどの見当がついてくる。
 また、計画づくりのポイントをどこにおくかという見当をつけるために、予想表をつくってみるのもよい。表に書きこみながら、いろいろの立場の人が問題ごとに何を考えるかの予想体験をしておくと、それが自ずとプランづくりに反映される。
 この表づくりは極めて簡単で、大きい紙を用意して、タテとヨコにそれぞれ立場の種類と当該再開発を進める中に起ると思われる問題を書いていき、このマトリックス表をうめていくというだけのことである(例表参照)。
 しかし、この表は再開発事業という極めてドラマチックな「街づくり事業」の一つのシナリオともいうべきものである。よいシナリオができていれば、それだけよいドラマが生れやすい。よいシナリオにするための視点についてふれてみる。

4. 総論賛成・各論反対……
 総論賛成、各論反対だから仕方ないという話をする人があるが、総論賛成ということを十分たしかめておくことが、街づくりにとってきわめて重要である。再開発事業は現在の居住地をつぶそうというのであるから各論反対は当然のことである。
 再開発法の不備をいいたてて、このような法律のもとで再開発をするのは悪いことのようにいう議論があるが、そのままに放置すればだんだんと街が衰退するかも知れない。もし現状維持の方がトクをするならばその方が正しいが、再開発をする必要があるとみんなが思いながら、「まとまらないからできない」というのであるならば、それはコミュニティ建設の努力を怠っていることになる。
 たしかに現在の法律・制度のもとでは進めにくい面が多いが、各論反対の声を、どのようにしてもうー度総論賛成の声でまとめなおすかが、コンセンサスを得るカギになる。そのためにも十分総論についての意見をまとめておく必要がある。はじめから各論にはいったのでは、意見の相違ばかり前面にでてコンセンサスなど得られない。
 地元の人たちにとって関心があるのは「自分はどれだけ補償金がもらえるか」であり、「自分は新しいビルのどこにはいれるか」であるが、その前に「この街がどう変っていくか」、「人口はどれくらいまで増加するのか」、「車はどうなるのか」、「交通事情はどうなるのか」などといった全員共通の問題について、あるいは街のたどってきた過去についての意見の一致をはかっておく必要がある。これが各論の相違をうめることになる。

5. 住民の立場による意見の相違
 再開発をめぐる人びとの立場は実に多様である。
 再開発事業で考えられる住民の立場は、まず第一には権利者である。しかしこの事業は広域的に影響の及ぶ「まちづくり事業」であるから、地区内の借家権者はもちろん、周辺の店舗の商売人、周辺居住者も含まれる。また駅前再開発などの場合にはその駅への通勤利用者、交通体系の変化によって影響をうける周辺道路沿いの居住者、あるいは新設される駐車場周辺の居住者なども含まれる。
 土地・建物ともに自己所有の人で同じように商売をしている人でも(同じ地権者でも)、業種がちがうだけで、全く反対の意見になることがある。これは再開発の例ではないが、アーケード街の車の交通規制のことで、どこの商店街でもよく意見が割れる。例えば八百屋さんのように重い商品を何度も搬入しなければならない人は交通規制は因るし、時計・宝石屋さんのように、大きい車での補給は考えられない業種の人は客が安心して歩ける路
が望ましい。これと同じことが再開発後の業種構成、床配置のときに出てくる。荷捌き場の評価をめぐって、似た話になるのである。
 地主、借地人、借家人の関係ともなると、全く対立した立場になる。従前の土地・建物
等の資産配分で、地主が多くなれば借地人・借家人は少なくなるわけであり、それは直ちに再開発後の床面積の減少となって響く。矛盾ばかりのようであるが、とにかくこれらの立場と問題をたんねんに拾い出していくことが必要である。
 また、商業再開発の場合には消費者も関係住民に含まれ、公共団体施行の場合には事業
費の一部負担を通じて、一般の市民も関係住民となる。これらの市民の立場も考えるならば、「市役所が再開発地区へ多く補助すればするほどより再開発である」というような考え方はなりたたない。これらの一般会計からの補助は、一つの歯止めが必要である。再開発地区からの税収が従前と比べて、どれだけ増えるかなどということが、一つの目やすになると考えられる。これらの立場が「対応予想表」のタテ枠に入るのである。

6. コンセンサスの時期をいつにおくか
 住民の立場をひろい上げて問題を整理するといっても、その関係者の何時の時点の立場
かということが大切になってくる。
 再開発事業の場合でいうと端的には、事業の「従前」と「従後」がある。そればかりでなく、5年後、10年後、何10年後というように、どの時点を基準にして問題を整理するかによって人びとの評価がちがってくる。同じような立場の人でも、何ごとによらずカッコウをつけるタイプの人は、やたら100年の大計をいいたてるし、現実重視派は今すぐの話ばかりする。
 実際の問題として、地元の商売人で「将来の立地条件を買う」などというゆとりのある人はいない。5年後には立地条件がよくなって商売もうまくなるから、当面は赤字でも……というようなことで、支持をえられるはずはない。
 ところが、関係者で議論しているとやたら「100年の大計……」とか「未来を先どりして……」というような話をする人がいる。その人とて、3年間赤字だったら因るのに……である。
 また全く別の視点ではあるが、保留床を買うスーパーなどは取得床を商売道具と考えている。ところが権利者は営業用の店ではあっても,一方では不動産と考えている。当然のことながら前者は建築工事費は安ければ安いほどよいと思うし、後者は長持ちするような不動産であってほしいと考えている。コストに対する考え方が全くちがう。これなどもコンセンサスの時点をいつにおくかということでの一致がないことから起っている。
 それ以上に、住宅を取得する人は最も「長期派」になる。住む人にとっては、そこは「すまい=住居」であって商売人にとっての償却資産という概念とはいささか趣きを異にしている。これらの立場のズレを考えながら、立場別・問題別予想表を書込んでいかなければならない。

7. 現在と計画時点とのズレ
 再開発事業に限らず、荷づくりのコンサルタントをしていると、あまりにも高度成長であわただしかったことの反動かも知れないが、「今のままでよい」という声が意外に多い。再開発でも「今のまま派」は潜在的な多数派である。
 地域開発の話をすると、「そう努力せんでも今のままで満足しています。ほっといてほしい。」という意見がでてくる。これが最も頑強な意見である。しかし、「今のままなんてそんなぜいたく言ってもらっては因る。三度三度ご飯たべても、少しずつ細るかも知れないのにほっといたら餓死するだけですよ」と言うと少しわかってもらえる。
 断食療法というのは一定の短い時期には成立するが、長期の断食は身体そのものをそこなってしまう。街は身体とちがうので毎日毎日の投資は必要ではないが、問題ごとの対応が必要である。街をきれいにするには毎日の掃除が必要であるし、店舗の改装とかアーケードの改造も、時期に合わせてしなければならない。
 つまり「今のまま続いてほしい」というのは、毎日毎日大変な努力で、有効な栄養補給を続けるということを意味する。
 この間題についてのズレは、再開発事業の場合では最も多い。それは、日頃街づくりについて考えたりすることのない人にとっては当然のことで、このギャップをうめる責任はコーディネーターのものである。
 「5年後のこの街はどうなっているか」ということを前提条件として、それに対してどんな計画をするか、あるいはほっておいてもいいのか……という議論がスタートにならなければならない。
 ある商店街で、「この商店街の中で10年後も大体今のままで営業していると思う店に印
をつけてくれませんか」といった途端に、ノンビリした空気が急に変ってしまったことが
ある。
 「ほっておいて5年後、10年後ガタが来てしまった街」を、計画中の絵と見くらべなが
ら、新しい街の姿をみつけていくことが、コーディネーターの役割りである。
 「1人でも住民の反対があったらやらない」という話があった。しかし、これは民主的ではない。正確には「いくら多数の人が5年後,10年後困ることがわかっていても、今1人でも反対の人がいたらやらない……」と言いかえなければならない。こういう状況にならないようにする責任が、われわれコーディネーターにある。

8. 過去のあと取りと将来の先取り
 「将来を先取りして日本列島を改造する」というかけ声のもとに、昭和47年から48年にかけて、全国的な土地投機が行われた。しかし、この時高値で取引された土地の大半は、
いつまでたっても使いみちがなく、今だに高い利息払いのため困っていると聞く。46年頃
にはすでに大手ディベロッパーの取得地だけで、大都市圏での60~65年頃までの住宅地需要に相当する土地の手当が終っているという話が取沙汰されていた。上記の土地ブームはその後に起ったものであり、「先取り」どころか単なる無謀なものでしかなかった。 そもそも計画=先取りと考えることが正しいのであろうか。街づくり計画などでは「あ
と取り7分に先取り3分」か「あと取り8分に先取り2分」ぐらいが丁度よい計画だと考えられる。
 あと取りという言葉は新造語であり、耳なれないと思うので、少し誇張した概念図を示した。街のポテンシャリティ(潜在能力)はアナログ的(連続的)に変化していくが(別図の右上に勾配の線で示す)、街というフィジカルなものはデジタル的(不連続)な変化を示すと考えられる(別図の段階的な線で示しており、建設すると直ちに機能が上昇するが、ほっておくと下ったり、少しずつ手入れをしているとそのままだったりする)。
6-2事業推移
 再開発事業というのは、地域のポテンシャリティに立ちおくれた街の機能を、現在の必
要なところまで引き上げるだけでなく、いくらか将来の予測に合わせて先行投資をすることである。したがってあまりにも大幅な先取りは、いたずらに長期間の金利負担に因るだけである。図で説明するとAやB点はしばしば起る改造での対応を示しており、Cぐらいが再開発に当る。D点は交通ターミナルの立地とか、近接地へのニュータウンによる大
規模人口流入などの大転換を示している。
 このような意味から、今までの矛盾を解決するためのあと取りを十分にし、先取りは少しでも……という態度で計画をたて、立場別・問題別整理をしなければならない。

9. 大きい声と小さい声
「住民の声をよく問いて……」と言われているが、声には聞こえやすい大きい声と、耳に届きにくい小さい声がある。昔「声なき声」というのがあったが、再開発事業の場合にもあまり声を出さない人がいる。このような人たちも事業が進んでいって問題が顕在化すると声を出してくるので、当初からこの人たちの気特を推し量ってプランニングを進めていくことが必要である。
 立場別・問題別対応予想表に書き込んでいく場合でも、このような配慮がいる。再開発事業に取組む場合、とくに市など公共団体施行の場合に出やすいのだが、それほど反対しなくてもよさそうな人や、市場などが反対にまわることがある。また一部の人が声を大に
して反対を言い、他の人は黙ってしまうこともある。このようなときに反対が多いので再開発計画を中止したりすると大多数の人が、ガッカリする。一般の黙っている人は、市やコーディネーターは本当の事情を十分のみ込んでプランニングを進めてくれると信頼して
いる場合もあるわけである。
 思いあがってはいけないが、おもてに現われない問題も含めた問題状況整理がいる。優れた住宅の設計家は、家族全員のいるところできまった通りの設計にはしないそうである。
それ以上の工夫をした上で、さらに姑さんのいないときに、奥さんに念おしをするという
話を聞いた。再開発事業の場合には、関係者が多いだけに、より一層かくれた意見に対す
る配慮がいる。つまり表現された意志よりも、置かれた状況(状況言語・状況表現)が語る
意志を重視しなければならないのである。

10. 目標は「総論賛成。各論やむをえない」
 いろいろな立場の人の、多様な問題をくみ上げて再開発を進めるには、あらかじめ問題別の対応予想表をつくるということを述べてきた。またこの表づくりは、基本構想段階・
事業計画段階・権利変換段階の三回ぐらい行うのが望ましい。
 第一回の表づくりでは、計画理念の整理に重点を置いて基本構想段階で行い、それに基
づいてプランの柱をきめていく。この時点でのポイントは、①再開発事業の対象になるか
どうか、②関係者のコンセンサスが得られるかどうか、③周辺地区の住民との間に無理がないか、④市や商工会議所などの応援が得られるか……等を中心にチェックする。その中で「総論の確定」を行うことになる。計画の進捗の中で「各論反対」で行きづまった場合には、もう一度ここに帰ってきて、本当にこの事業は「全体としてみたらやるべきなのかどうか」について考えてみるべきである。そこから自ずと結論がでてくる。
 事業計画段階や権利変換段階で対応予想表を作る場合には、計画のチェックと、個々の権利者の状況に重点を置く。できるだけ立場も問題も細かく書き出す方がよい。立場でいえば「老人の一人暮し」とか「身障者で営業している人」とかまで書き出す。また問題も「駐車場の確保」とか「キーテナント導入」、「公益施設の導入」などのように細かく、20から30程度にあげて記入した方がよい。この表づくりは1人でやってもよいが、関係者数人でやると抜け落ちが少なくなる。
 そしてもうひとつの結論は、このような立場別のマトリックス(行列)で表わさざるを
えないような相互関係でのコンセンサスは、論理的合意ではなく(言葉での合意でなく)「状況としての合意」を考えざるをえないということである。
 それは「総論一致、各論やむをえない」といった状態である。これだけ現実的利害が対
立する内容をもっている事業では、全員一致となったとしても、常にこわれる危険性をも
っている。このような合意状況にあっては、逆にいうと「大賛成」というような人がいる
とかえって具合が悪いことになる。誰しも「腹の中は、いくらか不満」であり、大阪弁でいうと「しゃあないなあ、まあお互い協力しましょうか」という状態が一番望ましいことかもしれない。つまり、相互の内部調整を内包した事業においては、大満足のウラには大不満が存在しないわけにはいかないからである。
 この方法の一部を使って、大赤字の出る再開発関連駐車場づくりを思いとどまるよう説
得したことがある。つまり「一般市民1人当りいくらの負担」というような説明は納得を
誘いやすい。 さらにこの表づくりで「立場の量」を意識することも可能であるが、この方はやってみてもいいが、それにとらわれないようにしないといけない。
 この手法は、とかく総論賛成・各論反対という言葉でくくってあきらめやすい問題に対
して、総論と各論の接点をつなげていく方法にもなり、再開発だけでなく、他の政策決定
の決断のための条件整理にも使うことができるだろう。